「哀れなるものたち」※ネタバレあり

金獅子賞をはじめ数々の映画賞を獲得している「哀れなるものたち」を観たきた。

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カテゴリーがコメディに区分されることもあったので油断していたのだが、ヨルゴス・ランティモス監督作品である。当然ながらそれなりにどぎついシーンがたびたび挿入される(最初からそう思ってみればそれほどきつい描写はない、たぶん)。序盤は特に、死体の目をメス(?)で突きまくって喜ぶベラや、脳を切り刻むシーンが多くてちょっとしんどかったが、後半はベラの典型的な教養小説における冒険という感じのストーリーになる。

というのも、序盤からベラはなんとなくファウストに出てくるホムンクルスっぽいな、という感じだったし、たびたびでてくる「すべてを体験するのよ!」というセリフもファウストっぽい。何より、途中でゲーテの書籍がでてくるので(海に投げ捨てられるが)、監督のインタビューなどは読んでいないが、おそらく下敷きの1つなのだろう。赤ちゃんの頭脳を持つベラは、「世界」そのものを経験することで、人格を形成していく。

もちろんそのような教養小説にはない視点も存在する。それがベラのジェンダー感の更新と、身体をめぐる問題だろう。後半、ベラは自らの身体の決定権は自分にあると主張する。プライベートだろうが仕事だろうが、性の決定権はベラにあるのだと。確かにそれはその通りであろうが、一方で、話はそれほど単純なのだろうか?という気もする。なぜならば、ベラの身体は彼女の母のものであり、「本来的に」という意味において、彼女自身のものではないからである。

しかし、そのようなねじれについて、ベラ自身はあまり悩んでいるように見えない。むしろ、それも含めて、自分自身の興味が赴くままに、人生を歩んでいくようですらある。結局のところ、彼女の強さというのは、そのように人生を引き受けて前進していくことにあるのかもしれない。どうも結局のところ、『ファウスト』に戻ってきてしまったようである。