「君たちはどう生きるか」(ネタバレあり)

宮崎駿の「君たちはどう生きるか」を観てきた。

 

感想としては、コミック版の『風の谷のナウシカ』のラストに帰ってきたように感じた。眞人は理想とされる塔の世界(塔の中の世界が理想郷的世界とは感じにくかったが)ではなく戦争も血なまぐさいこともある現実世界で生きることを選択する。これはナウシカのラストの選択にオーバーラップしている。ただ、ナウシカが族長という小さくとも地域のトップの家系の人間なのに対して、眞人は金持ちではあるものの、普通の少年であるといっていい。世界の選択を背負わせる必然性、言い換えると彼自身がそのような選択に迫られる実際上の問題があったのか疑問は残った。

 

他にも細かい疑問はたくさんあるのだが、それなりにストーリー上の大きな疑問としては、父親との関係の再構築はあったのか?という点である。映画の前半、眞人は実母の死と、それに伴う新しい義母との関係に折り合いがつけられていない。また同時に、義母のほうも眞人の存在を表にはださないもののあまりよく思っていない(そういえば、継母に7人の小人のような老婆たちという存在は、どうもディズニー映画を想起させられる)。この実母の死の受領と義母との和解が物語の一つの大きな要素になっているのだが、よくよく考えると、眞人は父ともそこまでうまくはいっていない。父は戦争で儲けており、お金で物を言わせるところがある人物である一方、家族思いであることは間違いなく、そこまで悪い人物でもないと思われる。ただ、眞人のことをしっかり見ているとも言い難く、眞人も父に自分の思いを伝えられていないような描写が多い。にもかかわらず、十分に父との関係が修復されるシーンはなしに、眞人はそれぞれとの母との和解および現実世界を生きることの選択によって、新しい家族が再構築されたようなラストで終わりを迎える。まあ、単純に父親とのすれ違いは、副次的要素だったのかもしれないが、そう思うと宮崎駿エヴァンゲリオンだったといえるのかもしれない(いや言えない)。