「ザ・キラー」※ネタバレあり

デイヴィッド・フィンチャー新作の「ザ・キラー」をNetflix公開前に劇場で観てきた。

youtu.be

オープニングはいかにもファイトクラブという感じで始まるのだが、本編自体は比較的静かにゆっくり進む。特に最初のパリのシークエンスは、主人公の殺しのための仕事の美学と共に、その準備がゆっくりと描かれる。そんな主人公が仕事を失敗し、その報復を受けたことによる報復を実行していくことでストーリーはぐいぐいと進みはじめる。

主人公はいくつもの偽名を使い分けており、本名はわからない。無記名な主人公は、数珠繋ぎ的に雇い主に迫っていく。このような流れは、典型的な労働者の反逆の物語ともいえるが、最後も雇い主を殺すのではなく、自分が優位に立ったように思わせたところで終わるのがこの作品のユニークなところだろう。金融街を爆破してみせたファイトクラブから、この点が大きく変わったポイントのように思われる。

何より、彼は殺しの準備場所としてWeworkの使われていないオフィスに潜み、パリでもマクドナルドのハンバーガーを食べる。そして、シェアバイクに乗って警察から逃げ、計画に必要なものはAmazonのロッカーで受け取る。主人公は、いかにもアメリカ的な、そして資本主義的な社会を時に利用し、時にすり抜け殺しを実行していく。社会を乗りこなしつつ、自分の居場所を確保していくことに、フィンチャーの現在地をみた気がする。

ちなみに、どうでもいいことかもしれないが(わざとらしいシーンなのでどうでもよくない気もする)、飛行機に乗ったさいに流れるあの雲の映像はなんなんだろうか。