「PERFECT DAYS」※ネタバレあり

ヴィム・ヴェンダースの「PERFECT DAYS」を観てきた。

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事前に「ほぼ何も起きずに日常が繰り返され~」というようなレビューを読んでいたのだが、実感としては派手なことは起きないが、割とずっと何か起きている映画だった。職場の後輩に連れ出されたり、突然人が尋ねてきたりと、平山にとって何か起きた日でストーリーが構成されている。

特に、長年会っていなかったと思われる妹と再会するシーンでは、妹から「これ好きだったでしょ」と高級そうに思われるお菓子が渡され、平山がもともと裕福な生活をしていたことが示唆される。どうやら平山は、今の生活になってしまったというよりも、自ら選んで今の環境にいる可能性が高そうである。

そして、平山はその生活にそれなりに満足していると思われ、そういう点で、この映画はストア的である(監督のインタビューでは彼は僧侶的だと言っていた)。ここで問題となるのは、個人の生き方としては、確かに1つの理想を描いているが、一方で、時折顔を見せる社会の影や矛盾に対しても、荒波を立てないことが1つの美徳としても写っているいるように感じた。THE TOKYO TOILETが映画製作のきっかけとなっており、そのような描き方しか無理なのかもしれないが、上映後のゴミが散らばる映画館で、それでいいのだろうかと考えさせれもした。

「ダイアローグ1 「新たな生」崔在銀展」

銀座メゾンエルメスのフォーラムで開催されている「ダイアローグ1 「新たな生」崔在銀展」に行ってきた。

https://www.hermes.com/jp/ja/content/maison-ginza/forum/231014/

会場内は鳥のさえずりなどの環境音が流れており、DMZでの森林復元のプロジェクトの概要を見ることができる。また、白のサンゴで会場を埋め尽くした「White Death(白い死)」は圧巻である(ちなみに環境に配慮された方法で制作されているらしい)

ちなみに、銀座の、しかも環境負荷が高いといわれるファッションを扱うエルメスのギャラリーで、環境に対する展示が行われているのが1つの皮肉のような気もする。

「VORTEX」※ネタバレあり

年が明けてから2週間が経ってしまったが、年末に観たギャスパー・ノエの「VORTEX」を。

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心臓を患う夫と、認知症の妻、それに薬物中毒の息子という家族の話である。フランソワーズ・ルブランの認知症の演技が非常にリアルで、息子と父親の会話もリアルである。年齢的にも立場的にも息子の気持ちになってみてしまったが、なぜ人は歳を取った自分を認められないのだろうか。

物語は基本的に妻と夫を映す2画面で展開しており、お互いの視点がずれていることを映しているとされる。それと同時に時間のずれもあるように感じた。夫がずっと映っているにも関わらず、妻が突然部屋から玄関までジャンプしているのである。最終的に時間軸のずれをどのように帳尻あわせしているのか初見ではわからなかったのだが、映画全体を通して表現されるあらゆるずれが、ラストに収斂していくのは見事だと感じた。

「ナポレオン」

リドリー・スコット監督の「ナポレオン」を観てきた。

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フランス革命マリー・アントワネットが処刑されるところからはじまり、ナポレオン死去までを描く。戦闘シーンはどれも壮大で、音楽もとてもよかった。一方で、ナポレオンをホアキン・フェニックスが、ジョゼフィーヌヴァネッサ・カービーが演じており、それぞれはいいのだが、やはり流石にジョゼフィーヌが年上というのは無理があると感じた(20歳ぐらいジョゼフィーヌのほうが若く見える)。あと、画面を真っ白にして転換するところが3カ所ぐらいでてくるのだが、こちらもちょっとダサい気がして気が散ってしまった。ないほうがいい。

ナポレオンとジョゼフィーヌの関係にもそれなりに焦点をあてており、どことなく2021年の「最後の決闘裁判」の影響もみられるが、「最後の決闘裁判」ほど主張の強さはないように感じた。あと、ナポレオンが議会を制圧するあたりは、近年のアメリカの政治的状況を反映しているように映り、全体的にナポレオンのキャラクターを薄暗くしているのは、そのあたりのせいだろう。個人的には人間味があって、このぐらいのほうが映画として面白いと感じた。

さいたま国際芸術祭2023

さいたま国際芸術祭に行ってきた。

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今回は、メイン会場の旧市民会館おおみやと、別日に会期がより短かったノースギャラリーで実施された「Women’s Lives 女たちは生きている―病い、老い、死、そして再生」に行った。

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芸術祭全体としては、3年前の前回よりスケールダウンしている感じがして、メイン会場もあまり空間を全体的に使った展示がなかった(3年前は老朽化で使われなくなった、旧大宮区役所全体をだいたんに使った展示が多かった気がする。部屋全体を砂で敷き詰めた展示や、地下空間もすべて利用されていた)。あと、導線自体がないのはいいのだが、思いがけず通れない通路が多く、ダンジョンのように階段を上り降りしなければならないのも気になった。

おもしろいところとしては、廊下に無造作に置かれた掃除道具や靴などの日用品である。たまに、美術展で作品なのか落とし物なのかわからないものがあるが、今回も最初は冗談でこれは作品かどうか考えさせる作品だ、ということを言っていたら、実際に配置を考えるとどうも展示物だったようである。最近あるあるといえばあるあるの手法ではあるが、展示物なのか市民会館の備品かわからないものもあり、そこに市民会館の歴史や生活を考える契機があることは、単純に面白いと思った。

「私がやりました」※ネタバレあり

フランソワ・オゾン監督の「私がやりました」を観てきた。

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コメディタッチでストーリーは軽快に進むが、結局何をしたかったのかと考えると難しい映画である(ちなみに別にコメディとして笑えるわけではない)。

なぜ難しいかといえば、ストーリー的にジェンダーの話を扱っていると取れるのだが、実際のところあらゆるジェンダーについてエンパワーメントしてないように思えるからだ。性別に関係なく、それぞれの「らしさ」から解放しようとした「バービー」とは大違いである(別に映画として似ていないのだが、例としてわかりやすいので挙げる)。

男性はほぼ全員がダメなやつであり、女性も小気味よく成り上がっていくのだが、そもそもそれも性被害にからむ正当防衛としての殺人によってである。実際には、殺人そのものが別の人間によるものなのだが、結果としてではなく、意図的にそのスキャンダル性を利用して主人公たち2人は成功を収める。

このようなプロットは、被害者による売名行為として受け取れ、近年のMe Too運動への皮肉でない限り、手放しで面白かったと言いにくいと感じた。女性側も、成り上がり方が歪であり、どのように受け止めるべきか難しい。結局、何がしたかったのかと思わせる作品となってしまっている。

ちなみに、後半、真犯人と思われるイザベル・ユペールが登場するのだが、個人的に重たい作品でしか見たことがなかったので、ワイルダー映画の登場人物のような立ち振る舞いのイザベル・ユペールを見るのは、個人的に新鮮であった。

「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」※ネタバレあり

スコセッシ監督最新作の「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」を観てきた。

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約3時間半と長丁場で、エンタメ要素はほぼないものの、レオナルド・ディカプリオ、リリー・グラッドストーンロバート・デ・ニーロそれぞれの演技は流石であり、緊張感が持続する(ちなみに後半、マッド・デイモンもでてるのか?となったがそっくりさんで有名なジェシー・プレモンスであった)。

当初、ジェシー・プレモンス演じるFBI捜査官をディカプリオが演じる予定だったようだが、最終的にはデ・二―ロの甥であり犯罪の加担側に役を変更している。結果的にこれはよい判断だったと思われ、いわゆる「白人の救世主」というストーリーから本作を救っている。何より個人的には、ある時期からディカプリオは少しダメな奴をやらせたほうが光る気する。

ちなみに、おそらく歴史考証はしっかりしていると思われるのだが、終盤、利益背反状態となったデ・二―ロの弁護士とディカプリオが普通に接触したり、牢獄内でデ・ニーロとディカプリオが普通に会話したりと、割とザルなことに驚いた。